第4幕続き
---酒場、酒場の大きなテーブルにて冒険者達の賭けが始まっている。
「さ、お前はどっちだ。」
「・・・女、それもとびっきりの美人に20銀だ。」
「ほっほ、攻めるじゃねえの。じゃあお前は。」
「俺は男、森の人に10銀だ。」
「妥当だな、じゃああんたは?」
「俺も男に、だが亜人族・・・いや獣人に30銀を。」
「それは大穴すぎねえか?別のにしてもいいんだぜぇ?」
---賭けの内容は”鉄”のアマリネ。
そのヘルムの中には『一体どんなのが詰まっているか』である。
なにせこの冒険者、酒場でも街であっても鉄兜なせいで中の顔をうかがい知ることができない。
そして古今東西の冒険者はそんな未知が大好きであった。
「いよーし、だいたい出揃いやがったな?」
---酒場一帯の冒険者から賭けを集め終わった胴元・・・と言ってもここらでは少し古参の冒険者ではあるが。
彼は集まったの配当金計算を行いつつ、考える。
『さて、どう確かめたもんかねえ・・・。』
---未計画である。本来は娼婦でも充てがって聞いてしまえば済む話ではあるのだが。
娼婦の誘惑には全くと行っていいほど引っかかることもなかったのである。
「はい!その賭け参加していいですか!!」
「お?クリ坊?お前も参加するんか?」
「はい!!私は男性!それもとびっきりのイケメンに5銀!」
「5銀・・・。坊主も苦労してんなあ・・・。」
「坊主じゃないですよ!こんなに長いじゃないですか!」
「5銀な、受け取っておくぜ?・・・・・・・お?」
「お?」
「坊主、お前にチョーっと頼みたいことがある。報酬は10銀支払おうじゃねえか。」
「10銀ですか!?何の御用ですか!!」
「あの"鉄”のよ、素顔をちょーっと覗いてみてくれねえかな?」
「へ?」
「何のことはねえよ、ちょっと"湯屋”へ連れて行ってどこに入るのかってのを見てくればいい。その時に一緒に入れるなら入って見てしまえばいいんだよ。」
「私も賭けてるのにですか?後男部屋・・・。」
「お前さんとしても願ったりじゃねえかなあ、他の奴か・・・お、彼処の嬢さんなんかでもいいよ・・・」
「私がやりますっ!!」
「じゃあ決まりだな、上手に誘導してくれればおじさんから10銀以上に駄賃も上げようじゃねえか!」
「はい!わかりました!!」
---ちょろい。本当にちょろい。
胴元の冒険者は心底そう思った。その刹那である。
「"鉄”様ー!!湯屋行きましょう!!」
---あ、駄目だこいつ。胴元は依頼を心底から後悔を始めることになる。
「湯屋??」
「はい!湯屋です!!」
「湯か、水気か」
「水気の方です!」
「・・・そうか、どこだ。」
「焼き場の奥になりますっ!!」
「そうか、後で行こう。」
「私も行きますっ!!」
「・・・?」
「行きますっ!!」
「・・・なぜ?」
「クリ坊!人を困らせるもんじゃあないぞ!」
---店長からのげんこつ、クーリィは頭を抱え涙目となる。
「スマンな"鉄”の、どうやら気に入られちまったらしいな」
「・・・そうか」
「ところで湯屋じゃが、どうせなら後で行ってくるといい。パン焼きのついででやっとる場所じゃから格安で提供しておる、個室で1回2銀じゃ。どうだ?」
「・・・夜にでも行こう。」
「そうか、大部屋もあるでな。ゆっくり休むといい。」
「私もいく!!」
「お前は仕事じゃ!!働かんかい!!」
「ぐー・・・。」
---「夜に"鉄”は湯屋へ行く」
人選を間違えたと頭を抱えていた胴元も、転がり込んできた情報にほくそ笑む事となる。
このタイミングで覗くことができれば何の問題もない、と。
---そして夜、酒場の裏手にあるパン工房併設『湯屋』
熱したパン焼き窯の裏に水を当てることで熱を帯びた水気を作り出し、身体を洗う施設である。
「はい、タカタ印の湯屋へいらっしゃいませ。大部屋ですか?個室ですか?」
用意されている部屋は、10人程度で使う大部屋が2つ、個室が6つ。更に脱衣所が3つほどとなっている。
脱衣所には「男性・女性・その他」との看板も置かれ、できるだけ規律を守るために工夫はされているようだ。
---「その他」
この地域には様々な亜人なども住んでいる。主に『召喚されてしまった』迷い人の子孫であったり。
一部のモンスターが人と交流を持った場合等、様々すぎて説明には事足りないのであるが、共通する特徴としては人間社会に積極的に踏み込んでくるのは『亜人の中では変わり者』、『人社会でも変わり者』である。表向き嫌われることや迫害されていないだけまだマシなのかもしれないが。
そんな人種・性別を問わずにごった煮にしているのが『その他』である。全部逐一分けていたらキリがないので人間だろうと男だろうと女だろうと森人だろうと犬人だろうと鱗人だろうと気にしないで一纏めにするのがその他である。
「個室を、5銀で見張りもつけてくれ。」
「はい、承知いたしました。」
---夜の湯屋はそこまで人気は無い。
朝から昼にかけてはパン焼きの熱が籠ることで時折やけどで飛び出てくる者が居るくらい熱い湯屋ではあるのだが。夜となると窯の熱も昼よりは冷め、有り体に言えば「ぬるめ」の部屋となっている。
熱いのを好む客が多いせいか、人は全くと言っていいほど居ない。
客としているのは3人だけである。
「よおおおおおおお!"鉄”のおおおお!!」
---わざとらしく大声を掛けるのは先ほどの胴元である。
「何の用」
「お前も湯屋かあ、奇遇だなああああぁ?」
---どうやらこの男、演技は下手の様である。
「・・・」
「ちょうど良かった、俺と一緒に裸の付き合いといこうじゃねえか?お前の冒険を聞いてみてえんだよなあ?」
「・・・」
---半分は本心である。
「・・・すまない、個室を使う」
「いいじゃねえかよ、どうせ俺とおまえくらいしか居ねえんだから。」
「・・・すまない。」
---少しだけ演技をやめる。
「駄目か?」
「・・・ああ。」
「じゃあお前の話に30銀払う!・・・駄目か?」
「・・・すまない。」
「50でどうだ?ん?」
「・・・金ではないんだ。」
---演技ではない。胴元として、冒険者としての興味が先行する。
「じゃ、じゃあせめてよ。個室まで一緒に行こうぜ?流石にそのまま湯屋に入ることはないだろう!?」
「・・・。いや・・・。」
「駄目か!?個室までも駄目なのか?じゃあよ!せめてその兜脱いでくれよ!!?お前がどんなやつか見てええんだよ!?・・・駄目か?」
「・・・。見せられるものじゃないんだ、すまない。」
「違うんだよ!見れる見れないじゃなくて俺にも胴元の意地があるもんでよ!な?どんなのでも驚かねえから!な?」
「・・・胴元?」
---しまった。一気に胴元の顔が青ざめる。賭けの張本人に賭けの内容がバレること、避けなければいけなかったが2人きりの状況に油断でもしたのか、自ら胴元という言葉を放ち、感付かれてしまったことをこの男は悟った。
「・・・賭けか。」
「・・・賭けだ。」
「・・・誰とだ。」
「・・・酒場で。」
「・・・そうか。」
---スゴンッ!!
アマリネの左拳が胴元の頭部にめり込む、まだこの冒険者は手甲をつけているのである。文字通りの、鉄槌。。
一撃で白目になり倒れる胴元。
「・・・・・・・・・・・・ぐぅ。」
「・・・すまない」
---胴元が気絶しているのを確認して、アマリネは見張りを呼び胴元を連れていかせる。
見張りも慣れているのか「介抱するか?」と聞いてきたので「よろしく頼む。」と伝えておくこととする。
「・・・ふぅ。」
---誰も居ないことを確認して一息つくアマリネ。
だが、もう一人伏兵がいることに”鉄”は気づいていなかった。
『よし!脱衣所に入ります、どこに入るでしょうか!?』
---心のなかで実況をしているクーリィである。
彼女はパン焼き工房・湯屋の壁隙間から先ほどの一部始終を覗き見しているのである。
『脱衣所・・・その他!その他にはいります!!え・・・え・・・?』
---『その他』に入ったことで面食らうクーリィ
『え・・・?その他・・・?”鉄”様亜人なんですか?じゃあどんな亜人何でしょうか!イケメンですか!?イケメンですか!?』
---面食らった割には元気である。大急ぎで次の覗きポイントへ向かう。
『伊達に何年もこの街で生活していません!覗きポイントは完璧です!!』
---次のポイントへたどり着く、覗き穴を通して完璧なポジションで冒険者を捉える。
『完璧です!!完璧です!!完璧です!!私が正体確かめて!!亜人でも格好良ければまあ構いません!!」
---本当に元気な娘である。
『さあ!皆と私の予想を裏切って本当に亜人なのでしょうか!今!兜に手を掛けて!!留め具を外しています!!パチン・・・パチンと小さな音を立てているぅ!』
---心のなかの実況中継が最高潮を迎えるクーリィ。
『そして兜に手を掛けその顔があらわになって!獣人であれば毛に覆われているはず!亜人なら肌の色に違いがあること!紋様なんかも書かれている!それらがあるでしょうか!無いでしょうか!今!兜を!!外して首筋!!首筋がぁああ!!』
---心の中の実況が止まる。
「肌・・・綺麗・・・。」
---首筋だけで目を奪われたのである。つややかで透明感のある首筋。
おおよそ冒険者には全く似つかわしくない白めの肌である。
ただ筋肉はしっかりと付いているが少女クーリィの目を持っても『冒険者らしく無くて、とても綺麗』と思わせるには十分であった。
そして首筋に見惚れた次は頭部を見る!彼女の心は最高潮である。
---ゴイィィィィィン!!
こちらも鉄槌である、鉄槌の張本人は店長『タカタ』。
鉄槌を受けたのは夜の仕事をサボってパン工場をウロウロしていた馬鹿な娘である。
「サボってなぁぁぁぁにやっとんじゃい!!今日はなんか知らんが糞忙しんじゃぞ!?」
---本日2度目の涙目である。
「だって店長ぉ、この先に”鉄”様が兜を脱いでるんです!」
「何ぃ!?なぜそれを早く言わん!わしにも見せんかい!!」
---店長も興味が無いはずない。
「じゃあまず私が見ますね!!」
「なぜそうなる!年功序列があるじゃろて!?」
「私の将来の旦那様の顔が見たいんです!」
「な?お前本気で気に入っちまったんかい!」
「はいっ!!」
---そんな問答を行いながら、覗き穴を覗く。
その先には、鉄兜が1個あった。
「店長!鉄兜しかないです!しかも目の前に置かれちゃってどこも見えません!」
「・・・バレとるわ・・・。」 ---青ざめる店長。
「・・・バレました?」 ---一気に紅潮するクーリィ。
「・・・・。」
「・・・・。」
---脱兎、完全に裏が取られる前に逃走する2人。
元気な初老と娘である。
---翌日
「よおおおお!”鉄”の!今日は何を食うんだ?」
「はーい、”鉄”様!今日は塩豚入荷してますよー!」
「・・・店長。」
「・・・なんじゃ。」
「・・・昨日の湯屋だが。」
「ホイ!ピーチエールお待ちぃ!!」
「・・・??」
「わしのおごりじゃ!湯屋で一悶着あったんだって?面倒な話じゃのぉ?あの冒険者にはきつく言っておいたから賭けはまあ・・・無効になっとるじゃろ、多分な!」
「・・・そうか。」
「その面倒に対する酒場からの詫びじゃ、飲んどくれぃ!」
「・・・その件だが、脱衣所に・・・。」
「はい!ピーチエールおまたせしましたぁ!!」
「・・・????」
「大変だったんですって”鉄”様、私からもエール奢らせてもらいますねっ!!」
「・・・・・????」
「「(よし!誤魔化しきれたか!!)」」
---全力で隠蔽工作に走る2人である。
「・・・せっかくの湯屋だが、脱衣所に穴が開いていては寒い。塞いでおいて欲しい。」
「「は”い”い”い”い”い”い”い”!!!」」
---直立不動から完璧な返事の2人であった。
第4幕、終わり。
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