第3幕
実際長い、ほんとうに長い。
--酒場の外、街の大通り。
これから始まるのは冒険者同士の『私闘』
冒険者同士がどうしても引込みがつかなくなった時に行われる『私的な戦闘行為』である。
大体は酒場で発生し酒場のマスターが胴元となりたまたま居た冒険者達が賭けに興じる。
酒場ではまれに起こる娯楽でもある。
これから戦いに望む者達以外は。
「では各々方!食事は済ませたか!!装備の用意は万全か!」
「これから行われるは私闘!!『アマリネ』と『ブーカ』の2人による私闘である!!」
「さあ、賭けの時間はこれから半刻!!存分に張るがいい!!」
「「「「「おおおおおおー!!」」」」」
「俺ブーカに銀40!!」
「俺もブーカだ!!銀20!!」
「ちょっと賭けになんねえだろ!!俺もブーカに銀50だ!!」
「あの鉄に金2!!」
「あ?お前あっちに賭けるの!?しかも金!?」
「俺は求めていた…こんな魂を削る勝負を!!」
「あ、ダメだこいつ酔ってる」
「私あの子に90銀!!」
「私もあの子に3金賭けるわ!!」
「私も!!!10金打ち込んじゃるわー!!」
「「ママ!!」」
「「「(なんだこの娼婦達・・・)」」」
---賭けは十分に盛況である。
比率は娼婦の大量投資があったとはいえ、ブーカ7・アマリネ3程度である。
性格や言動はともかくとして、ブーカの強さだけは信用されているのである。
「それでは各々賭けの時間を終了とする!」
---マスターの大声が深夜の大通りにこだまする。
「それでは胴元として、戦いに挑む2人に賭ける物を聞こう!」
---私闘の条件、それは互いに何かを賭けさせること。
それは小さな私闘であれば、『プライド』であったり『謝らせる』であったりもするが。今回は。
「俺ええええはあああ!!こいつを犯してえええええええ!!」
---恥も外聞も無いくらい堂々とした大声での強姦宣言である。
「・・・。それでは聞こう!『アマリネ』お前は何を賭けさせる?」
---アマリネは黙っていた。店長は目の前の冒険者の装備を確認する。
『防具は・・・ふむ、酒場と変わっとらんか・・・。』
『武器は・・・長剣。背中に背負っているのは防具代わりかの。』
『腰にメイス1本・・・刃は無しか、盾はずいぶんと大きい物を使うな、馬上戦の経験もあるかもしれないな・・・?』
『ふむ・・・だが装備の状態は良い、よく手入れされている。』
「・・・」
「アマリネ?賭けさせるものを?」
「・・・」
「(本当に大丈夫なんじゃろうな・・・。)」
「・・・腱を」
「・・・ん?」
「両手両足の腱を切って・・・飼う・・・。」
「両手両足の腱を切って・・・飼う・・・?」
「はい」
---どっちも相当おかしいのかも知れない。店長は少しだけうなだれる。
「各々、それでよろしいか?」
「構わない」
「あぁ?ああああああああああ!?俺を?飼う?俺を?俺をおおおおおおおおおおお!?」
「ふざけるなよおまえええええええええええええええええええ!!!」
「ブーカ!!まだだ!!まだ動くな!!」
「うるせあああええええええええええええええええええ!!」
「・・構わない。」
「ったく!始めるぞ!!見届けはこのタカタが務める!!」
「それでは両者…始めぃ!!」
---言い切るか否かの刹那、巨体が飛びかかる。
手に持つのは鉄棍、怪力に任せてゴブリンや果てはリトルオーガまでを屠ってきた。
大きく振りかぶり、振り下ろす。
「しいいいいいいねえええええぇぇぇぇぇえええええ!!」
---轟音、素手でカウンターすら破壊する腕力で叩きつける。犯す犯さない以前に完全に殺す気である。
だが当たらない、横に避ける。
「・・・。」
「あああああああああ!!!?」
---鉄棍でのなぎ払い、空気を裂く音に明確な殺意が宿っている。
だが当たらない、姿勢を低く鉄棍の下を通り抜け、そして背負った剣の峰で下から腰を打つ。
「決まった!?」「いや!切れてない!峰だ!!」
『峰?いや、斬る気がなかったのか?』
「あああん??ッッッッいてええええええええええええ!!」
「・・・。」
「あああああああ!!この糞"鉄"がああああああ!!いてえええええんだよおおおおおおお!!」
---一度大きく距離を取るブーカ、大きく息を吸う。
「あああぁぁぁあああああ・・・・。いいいいいいいい男だなああああああ、犯してえなああああああああ!!・・・・決めたああああ・・・。今・・・犯すううううううううううう!!」
「犯してやるうううううう犯してやるおおおおおおおおお、こいつらの目の前でええええ!!その硬い穴に俺えええええ俺をねじ込んでやるうううううううううううううう!」
---ああ、こいつ何時も以上にイカれてやがる。
夜とは言え大通りで衆人環視の中、強姦宣言をするような奴がまともなわけがない。更に皆の前でと言うお
まけまでついた。
「だが賭けちまったしなあ」という複雑な気分のブーカに賭けた側。
「正直ぶっ殺してほしいわこの糞性犯罪者」という気持ちで団結するアマリネに賭けた娼婦冒険者連合側。
「はああああああああああああ・・・」
---大きく息を吐き、吸う。
「・・・俺のあああ体あああああ」
「魔法!?」
---店長が目を見開く
『驚いた、こいつ魔法も使えたのか?!』
「俺のああああああ心おおおおおおお」
---衆人も固まる
「魔法?!」「魔法だよな?」「使えんのかよ」
「おい・・・あいつ毛深くなってね?」
「いや、でかく・・・でかく!?」
「大きくなってる!?」「気持ち悪っ!!服も破れてるわよ!」
「体あああああああ・・・強靭んんんんんん『強くうううううう!!』」
---魔法『獣化』
その名の通り己の身と心を獣に近づける魔法である。
ブーカは恐らく、恐らくは大猿。体躯が二回り大きくなり毛に覆わている。
「あああああああああ・・・犯す犯す犯す犯す犯すうううううううううう」
---店長は考える。
『まさか、『獣化の反作用』でここまで正気を失って?』
---だがその考えは獣の咆哮により棚上げされ戦闘の見聞へ集中する。
「犯すゥ!!」
---詠唱が終わる刹那、次は巨獣が飛ぶ。
既に鉄棍は持っていない、代わりに爪がある、牙がある。
更に下腹部では一物がそそり勃っている。
先程よりも更に、早い。
---左手、右手、牙。
当たればどれも重症は避けられない、が、避けて盾でいなす。
そして・・・。
ーーー爪を振る、避ける。観察する。
「・・・剣は、難しいか。」
「犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す」
「・・・発情期か。」
---爪で突く、避ける。
「犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す」
「・・・。」
---脚が振られる、避ける。剣を捨て、メイスを構える。
「犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯すおk」
「うるさい。」
---「ゴッ・・・」鈍く、乾いた音が響く。
ブーカの側頭にメイスが当たる、一瞬意識を失うブーカ。
「犯・・・犯すいいいいいいいい!!」
「タフだな『獣化』は」
---巨獣の軸足に自らの脚を乗せ、翔ぶ。
そして肩に片足を乗せ、メイスを振るう。
「犯してごぉっ!!おごぉっ!」
「・・・まだか。」
---「ゴッ・・・ゴッ・・・」鈍く、乾いた音が再び、三度、四度響く。
ブーカの側頭、頭頂、側頭、側頭に何度も何度も執拗にメイスで殴打する。
「おか・・おカ・・・」
「・・・」
---「ゴッ・・・ゴッ・・・」何度も、何度も何度も何度も殴打が続く。
巨獣がゆっくりと地面に倒れた後も執拗に何度も、何度も。
何度打ち据えたか観客が数えるのを諦め、娼婦の娘達が目を逸らすのをやめた頃。ようやく"鉄"の冒険者は巨獣の頭部を殴打するのを終えた。
既に巨獣の頭は変形し、身体は既に赤い血だまりと共に動かなくなっていた。
一部を除いては。
「勝負は終わったな。・・・何かとっくに終わっていた気もするがな。」
---一部始終を最後まで凝視していた店長が勝負の終わりを告げる。
「勝者!!アマリネ!!」
---冒険者達の歓声が上がる。それと同時に賭けの配当が配られていく。
この一夜で一月分の食費を稼いだ者、早急に稼ぎが必要になった者。新しい衣服を購入して自分を飾る算段を建てる者。様々である。
---そして無い胸を撫で下ろすものがここに一人。
散々買われる寸前を店長に止められたクーリィである。
『助かった…、どう考えてもこんなのにやられたら二度と使い物にならなくなる…。』
倒れながらなおも屹立・射精までしている一物を見てそう思う。
「まだ生きてる。」
「!!?」
---巨獣の腹の底から深い唸り声が聞こえ始めている、目覚めることは無いであろうが店長や周囲を怯えさせるには十分な音であった。
「本当だ・・・本当に化け物みてえだな。」
「どうする?」
「そりゃ・・・腱を切るんだっけか」
「分かった」
---いつの間にか背負いなおしていた長剣を構え直すと巨獣の手と脚の腱を切る、滑らかに。
「あっさりやりやがった・・・で、飼うのか?本当に?」
「・・・飼う。」
「本当」
「飼ってどうするんだ?」
「譲渡する。」
「はぁ?」
「例えば、酒場のマスターとか。」
「は?・・・ハ・・・ハハハハハ!!そうかそういうことか!」
「そういうことだ。」
「分かった、それでいいんだな?」
「それでいい、気持ち悪い」
「ハハハハハハ!おい!お前らぁ!!こいつはもう動けん!とっとと縛って牢獄ぶち込んじまえ!」
---巨獣ブーカは暇な冒険者達により運ばれる。
「ハハハハハハ!おい!お前は確かに"鉄"だ!!少しだが疑って悪かったな!!」
「・・・疑い?」
「ああ!少しだが疑っておったよ!こんな辺境にお前さんみたいなのがやってくるなんて考えても見ないものでな!」
「・・・そうか。」
「だがもう安心だ!皆ァ!厄介者はいなくなった!!今日は一杯だけワシが奢るぞおお!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
---皆が全力で酒場に戻り酒盛りの再開である。
冒険者とはそういう者達である、飲んで騒いで翌日に再度冒険。
---そして翌日の夜。
「しっかしすごかったよなあの"鉄"様!」
「さすがは"鉄"級の冒険者だよな!"緑石"なんて相手に成らねえときた。」
「でもよう、あのブーカって奴は緑石じゃねえだろ正直。」
「ああ、冒険者には『素行』ってのも求められるんだってよ。」
「ああ・・・素行か・・・あいつ男犯してばっかだったもんなあ・・・。」
「そっちじゃねえよ、憲兵殺したりやりたい放題に近かっただろう?それに最近は余計に気狂いみたいになってたからな。」
「あー・・・。」
「しかし『獣化』の魔法ってのはとんでもねえな。」
「だわなあ、あっさり倒されちまったけどあんなもん目の前で見たら俺なら命乞いするわな。」
「カカカカ、俺も逃げるわ。逃げ切れんとは思うがな。」
「タダでさえ化け物なのにそれが更に化け物だもんなあ。」
「ただよ、店長と"鉄"の話を聞いてたらよ。あの『獣化』の反作用でブーカはイカれちまったんじゃねえかっていう話をしてたぜ?」
「『獣化』の反作用?反作用なんてあるのか?」
「知らねえよ、俺だって魔法は火球程度は使えるけど4~5発で疲れちまう、こういうのを反作用って言うんじゃねえの?」
「まあ、どっちにしろあいつイカれてたもんな。」
「だよな、"鉄"様様だわ本当。」
--ガチャン--
「お、"鉄"だ。」
「"鉄"だな、こんな酒場に金属音建てるのは"鉄"だよな」
--ガチャン--
---小柄な少年が応対する。
「いらっしゃい!!"鉄"様!今日は何しますかー!?」
「・・・チーズとエール、パンを一つ。」
「はーい、しばしお待ちくださいねー!」
「なあ・・・俺一つ気になったことがあるんだよ。」
「ん?実は俺もあるんだよなあ。お前とは付き合いも長いからな多分同じだろう?」
「あら?ちょっと聞かせてほしいわね、私も気になるのよね。」
「おう姉ちゃん、俺のエール何飲んでるんだよ!!」
「まあいいじゃないの、で?気になってることって?」
「ああ、"鉄"のことなんだけどな・・・」
---あいつ、男か?---
3幕目 終わり。
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