「きゃ・・・ぎゃああああ・・・・ゆれ・・・揺れてちょっとまっ・・・ぎゃああああああ!!」
「ハッハッハッハッハッハ!!徒歩で半日なら私なら半刻さ!それまでしっかりつかまっているんだぞ!!」
「ぎゃ・・・・おごっ・・・おぐっ・・・ぎゃごおおおおおお!!」
「ハッハッハッハ・・・」
フルプレートに身を包んだ少女を肩に担いで巨人は街道を走っていた。まるで鎧の重さを意に介さぬ用に、少女の状態すら意に介さず。
~30分後~
「お嬢ちゃん、ここが君のおばあちゃんのいる町でいいのかね?」
少女は震えていた。普段見ることのない高さと高速で動く景色の移り変わりに頭が追いついていないのだ。そして頭が追いついていないとき最後に起こす行動はどの世界の人間も同じである。
巨人の肩から下ろされた刹那である。
「おごっ・・・・ごぼおおおおおおお・・・ごほっ・・・・・・ごほっ・・・み・・・ず・・・ごぼっ・・・ご・・」
盛大に嘔吐した。巨人の肩から下ろされた瞬間今の今まで我慢してきた自分を誉めてあげたい、少女はそう考えることにしたが、ここが自分の故郷でなおかつ町外れとはいえ街道のど真ん中で胃の内容物をすべて吐き出したことへの後悔の念も少しずつ湧き出す。
「おや、お嬢ちゃん実は体調も悪かったのかね?水ならここにあるから飲むといい」
「ちが・・・み・・ず!」
巨人が出した水袋に『違う、そうじゃない』と思いつつも勢いよく手を伸ばす少女
「(ごきゅ・・・ごきゅ・・・)ふぅ・・・・・・・・・ふぅ・・・・すぅ・・はぁ・・・。違いますっ!!あなたがあんな勢いで走った上に私を担いであんなに揺らして!!おかしくならない人間がどこにいますかっ!!」
「ん?私はなんともないぞ?」
「言いたいこと伝わってませんね!!?お婆ちゃんは『女の子は大切にしなさい』って行っていました!私は勇者ですけど女の子です!!大切に扱ってください!」
「む、そうか。それはすまなかったが、ここが君の町で間違いはないかね?」
簡単な石垣で区切られた区画と、迷い人が持ちこんだと言われる「カワラ」という屋根作りが特徴的で多少の籠城戦であれば数日は絶えられそうな家屋が多い町、少なくとも貧困と言う言葉からは多少離れた町である。
「・・・そうです。ここが私の故郷の『ナイクサール』です、最初は迷い人たちが集まって作った町だって言われています。」
「確かに変わった町だな、こんな石垣や屋根など見たこともない、きっと戦争に備えていたのかもしれないな。」
「かもしれません。ところで私を動けるようにしてくれませんか・・・、さっきの『アレ』を埋めてしまいたいので。」
「おお、そういえばお嬢ちゃんは動けないのだったな。うむ・・・しかし襲われない保障はないしなあ・・・どうしたものか。」
巨人は笑みを浮かべながら、少女に問いかける。
「襲いませんから!また担がれて走られるのはもうやめてほしいだけです!」
「そうか、それは残念だ。良いトレーニングと良い汗がかけたのだが。」
「私を貴方の鍛錬に使わないでください!!」
「わかった、では時間は・・・1ヶ月で構わないかね。私が掛けられる中ではもっとも長い時間だ。」
「1ヶ月・・・お願いします。」
「では、少し集中するから黙ってみていてもらいたいことと。これから私に起こることを気にしないで見ていてほしい。いいかね?」
「はい。」
「よろしい。では・・・」
巨人の掌に光が集まる
「我が力、我が手に、我が手、彼の者に、この手、この力『写しこみ、移せ』」
半刻前に見た光よりさらに強く輝いた掌が少女の鎧に触れる。鎧は強く光り、そして蛍の様に消える。
「・・・やっぱり・・・何も重さを感じない・・・。おじさん凄い魔法使いなんですね。」
「残念だが、私の使える魔法はこれだけでね。凄い魔法使いと言うわけではないのだよ。それにね・・・。」
少女が巨人を見て違和感を覚える。
「??おじさん、少し痩せましたか?」
「そういうことだ。この魔法は「重量操作」と名づけられた魔法の一種でね。私の場合は私の力を重量に変えて物や人に与えることで可能にしている。だから強力なのを使うと、少し筋肉がしぼんでしまうのさ。」
「凄く身体に悪そうな魔法ですよね、それ。」
「ハッハッハ、またトレーニングすればすぐ元通りだから気にすることはないけどね!逆に鍛えなおすのがまた楽しくてな!」
「そ、そうですか・・・それならちょっとさっきの『あれ』を片付けてから行きましょう。」
「構わないぞ、沽券に関わるようだからな!さ!おじさんはちょっとスクワットでもしているかな!!」
~10分後~
「589・・・590・・・591・・・、お嬢ちゃんそこまで念入りに片付けなくても大丈夫じゃないのかい?605・・・606・・・。」
「私の沽券にかかわる話です!もう少し待っていてください!!」
「ならばもう少し待たせてもらおう、君のお婆ちゃんにも聞きたいことがあるからな!・・・621・・・622・・・」
~20分後~
「お待たせしました、これで大丈夫です!」
少女が盛大に嘔吐した道は、嘔吐する前より確かに綺麗になっていた。しかし周りの道とは不自然に見えるほどに綺麗になって。それほど少女の沽券とやらは大きかったようだ。
「1599・・・1600・・・っ!ごああっ!!ふぅ・・・終わったかね」
「はい。・・・本当に少し身体が戻りましたね・・・。」
スクワットを終えた巨人は魔法を唱えた直後よりも下半身が太くなって見える。
「ハッハッハ、そこがこのおじさんの凄いところさ。さ、お婆ちゃんのところへ案内しておくれ。」
「わかりました、こっちです」
少女が案内した先は町の中心部、ひときわ目立つ屋敷の一つであった。
カワラ・石垣の壁は周辺と代わりがないが家の屋根に巨大な金色の魚のオブジェクト、家の壁は白い土の壁。しかも外から見て4層の塔になっており、周りには人口で作られた水場に囲まれていた。もっとも白い壁は多少汚れたり崩れかけてはいたが、周りとは圧倒的に違う威圧感をその場にもたらしていた。
「ほ・・・ほぅ・・・なんだこの家は・・・」
「さっきと同じ話ですが迷い人が作った家です、『イクサノジョー』と作った人は言っていたそうですがその人はもう300年前位の人だってお婆ちゃんが言っていました。」
「戦争用に作られたとしか思えんなこれは・・・。」
「そうなんですか?」
「いいや、おじさんの憶測だけどね。」
「それでは恩義もありますし、ご案内いたします。おじさん。」
「うむ、よろしく頼むよ。お嬢ちゃん。」
「巨人」と「少女」はイクサノジョーへ。
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